川上 俊夫 院長の独自取材記事

 

阪急宝塚本線・庄内駅東口から歩いて1、2分の「川上眼科」は「今、困っている症状を放置しない」を診療方針の筆頭に掲げている。川上俊夫院長は日本眼科学会眼科専門医だが、「利用できる治療法はすべて利用する」という方針で、漢方治療も駆使し腹痛や肩こり冷えといった症状も治療の対象とする。西洋医学中心の現代の医療で、診察や検査の結果で異常が見つからなくても患者の訴えに耳を傾け、改善に向けて最善を尽くす。そんな川上院長に漢方を取り入れたきっかけや、医院の特徴、診療方針などについて聞いた。

(取材日2018年4月2日)

開業で変わった、医師としての人生

川上眼科のある豊中・庄内との、ご縁を教えてください。

 私は1955年に大阪市天王寺区で生まれました。眼科の勤務医だった父の清一郎が1958に、現在の場所で開業すると同時に引っ越し、住み始めたので、ものごころがついた時から育った町なのです。

 私は3人兄弟の長男で、弟2人は医学の道には進みませんでしたが、私は中学生の時に父の友人が目の難病にかかり、「何とかならないのかな」と思ったことがきっかけで医師をめざしました。その方の詳しい症状や病名など、当時、自分ではわかっていなかったのですが、治らないということがもどかしくて自分で何とかできないか、という思いがあったのでしょうね。医学部に進学し眼科の医師になりました。

引き継がれたきっかけは?

 私が高校3年生の時に父が亡くなったので、その時から、川上眼科はいったん閉院していました。

 医学部卒業後は兵庫医科大学病院などに勤務していたのですが、もともと地元の古くからの患者さんから「いつ再開するのか」という声をいただき続けていたので、引き継ぐことは私にとっても既定路線でした。

 ですから、そんな声に後押しされるかたちで、1993年に古い医院を建て替えて約20年ぶりに川上眼科を再開院しました。私の人生の中で、この再開院の意味や意義はとても大きいものでした。

どのような意味や意義があったのでしょう。

 30代になった頃、大学病院勤務時代に肝炎になったのです。

 治療を受けて検査の数値が正常に戻ると医師は「治った」と言いました。ところが、私には治った実感がありません。医学生時代も肩凝りがひどくて神経内科の先生に相談したら、「肩凝りなんて病名はないんだよ」とまともに聞いてくれなかった経験もあり、西洋医学の枠だけでは患者さんが困っていることを解決できないと思ったのです。

 そこで漢方に興味を持ったのですが、大学病院や総合病院の勤務医は忙しく、勉強したり患者さんとじっくりと向き合う時間が確保できなくて、せいぜい製薬会社のデータに沿って西洋医学の対症療法的な発想で漢方薬を処方して症状の変化を見るくらいでした。でも、開業して少し余裕ができたことや、自分の裁量で治療できる範囲がひろがったことが、漢方を本格的に勉強して治療にとりいれるきっかけとなり、私の医師としての方向性を現在のスタイルに転換できたのです。

 

患者が困っている症状を放置せず、根治への道を探る

開業医になられて、すぐに漢方治療に取り組まれたのですか?

 最初は製薬会社が主催する勉強会に参加する程度でしたので、漢方の処方箋を出すこともできませんでした。目の疲れを訴え来院した、不妊治療を受けているという女性の患者さんに、知り合いで信頼のおける漢方の医師を紹介したのですが、その先生は患者さんの体質や生活態度までズバズバと言い当てて、夫や姑に対する接し方まで指導したそうです。

それから半年くらいしてから、その患者さんが待合室で泣いているのです。聞いてみると、妊娠して、うれして涙を流していたというのです。

 そんな姿を見ると、漢方による体質改善の重要性を痛感し私も「漢方をもっと真剣に勉強しなければ」と一念発起し勉強を重ね、再開院してから5年ほどで治療に取り入れることができるようになったのです。

現在、漢方での治療が中心なのですか?

 中心ではありません。レーザー手術も行っていますし、西洋医学でも治らなければ漢方を使う、という方針で、利用できる治療法は何でも利用しているのです。

 ただし症状によっては最初から漢方を使うことはあります。私の実感では西洋医学よりも漢方のほうが症状に対する選択肢が豊富なので、治療の幅が広がるのです。

 漢方というと、ゆっくりと体質から直すイメージをお持ちの方は多いでしょうが、「標治(ひょうぢ)」といって、肩凝りやかゆみを対症療法的に改善する治療と、症状の根本となる原因を治す「本治(ほんぢ)」があります。漢方を取り入れる際、標治を行っている医師は少なくありませんが、私は本治を重視しています。

診察で心がけていることは?

 患者さんが困っている症状を放置しないことです。検査の結果で異常がなかったり、西洋医学で治らなかったりしても、不調があれば治す方法をとことん探します。そうなってくると、必然的に漢方での治療になってきます。

 しかし、やはり西洋医学で治るものは、そちらを使ったほうが症状を短時間で改善できるので、先端の西洋医学の知識は常に得るようにしています。

 漢方は、どれだけ勉強しても底がないというくらいに深いので、両方の知識を得るのは大変です。家内が「どうしてそんなに勉強ばかりしているの」とあきれるほどですが、仕方がないのです(笑)。

 

患者の笑顔を見るために

どのような患者さんが来院されますか?

眼科ですから、もちろん目の不調で来られる、ご近所の方々が多いですが、最近は当院で漢方治療を受けられた患者さんの紹介やクチコミで眼科以外の症状を訴えられる方も増えてきました。世代は、子供からお年寄りまで、すべての年齢層ですね。

 ある時、小学生の女の子が目の治療に来たのですが付き添いのおばあさんが「この子わがままで言うことを聞かないんです」とおっしゃるんです。長年の勘もあって「もしかして、おなか痛い?」と聞いたら「うん。でも、言っても誰も治してくれないから言わなくなった」と打ち明けたのです。

 そこで腹痛用の漢方薬を処方したのですが、しばらくして再度来院した時には、最初に診察した時の不機嫌さからは見違えるように笑顔になって、素直に返事もするようになっていました。とにかく患者さんがんにこっとされるのが一番うれしいですね。

院内処方に対応しているのですね。

 漢方治療の場合は、診察室で漢方薬を服用してもらって反応を診ることがあるので、院内処方にしています。それに、同じ名前の漢方薬でも製造しているメーカーによって品質が違うので、効き方に差があるというのが私の実感なので、自分で選んだ会社の商品を使えることも院内処方のメリットです。

 つまり漢方薬は工業製品とは違う“なまもの”のような面があるのですね。奥が深くて1剤を使いこなすのに2、3年かかります。健康保険が適用される漢方薬は150種類ほどありますので、使いこなすにはまだまだ勉強と試行錯誤が続きます。

これからの抱負などを聞かせてください。

 「治らない」と諦めていても、漢方なら改善するという症状は多いと思いますし、スマホなどの普及で、とにかく現代人は目を酷使しすぎて体全体の不調につながっている可能性もありますから、その点の注意喚起もするために、当院のホームページなどでの情報発信をもっと充実させたいですね。漢方ならば治る可能性があっても、患者さんが納得しなければ私は漢方治療を選択しませんので、正しく理解してほしいのです。

 診察では症状と全身との関係を探りますので、患者さんのおっしゃることをじっくりうかがうのですが、時には「主人が失業して・・・・・・」と経済的な事情を打ち明ける患者さんもいらっしゃって、支援などを紹介することもあります。嬉しいことに「先生には何でも話しやすい」と言って下さるんです。“よろず相談窓口”みたいになっていますね(笑)。

 ですから、気軽に何でもご相談いただければと思います。